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銀を磨く

抽斗を整理していたら、昔、妹から贈られた銀のネックレスが出てきた。

彼女が高校時代にアメリカ留学していた時に現地から送ってくれたプレゼントで、だから、かれこれ20年以上も前のものになる。
銀は、20代の頃に好んで着けていたけれど、しばらく着けていなかった。
月日が経ち、金の方が顔色が良く見えると思うようになったのだ。

この夏は、不思議とまた銀に心惹かれていたところだったので、まるであちらから「お久しぶり!」と出てきてくれたように思えた。
静かに時間を重ねたことで、銀はすっかり黒くなり、いわゆるいぶし銀の色になっていた。思い立って、銀磨きの布で、夜更けに磨いた。

磨きながらふと、何かの小説で、眠れない夜は銀食器を磨くとよい、というくだりがあったことを思い出した。
いや、実際に物語の主人公である女主人が、眠れぬ嵐の夜に、嫁入り道具の銀食器をひとり黙々と磨くのだったろうか・・。
物語の題名は思い出せない。
薄青い夜更けの居間で、女がひとりぼっちで銀の茶器や匙を磨いている風景だけは、なぜか目の奥に残っている。
物語の中の風景というのは、実際に見たものでもないのに、なぜこんなに鮮やかに残るのだろうか。

銀の匙をくわえて生まれて来る、という言い回しがある。
人生の幸福をつかむ赤ん坊の象徴として。
裕福な生まれつきの赤ん坊という意味もあるらしい。
あの物語の女主人の、本当の幸福はなんだったのだろう。
少なくとも、夜更けにひとりきりで銀を磨くことではなかったように思う。
眠れぬ夜は、自分にとっての本当の幸福の意味を、自分に問いかけてしまう。

想いを巡らせているうちに、ネックレスはだいぶ輝きを取り戻した。
家族からもらったものなので、お守りにしようと思い、光を取り戻したチェーンに、青いマリア様のメダイをつけた。
なんとなく、そのまましまうのが淋しくなり、銀のネックレスを身に着けたまま布団に入り、眠った。

41才になった、最初の晩のことである。



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