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霧の夜

家路の途中、深い霧に迷いこんだ。
夜だった。
霧というものは、まだ見ぬロンドンにあるものだと思っていたので、とても新鮮だった。

ひどく冷たいものなんだね。
知らなかった。

横をすぎるカップルが、息を弾ませてはしゃいでいた。
なにこれ、と言い合って。
非日常を楽しんでいた。

私は芝居をしている人間なので思わず、ロスコを焚きすぎた時の風景をぼんやり思い出してしまって。
そんな自分に、驚いた。
ロスコじゃないよ、ミストだよ、と嗜めた。

何歩か先がもう見えなくて、手も耳もひんやり冷たくて、行き先が見えないせいで、よけいに静かな夜に思えた。

冷たい、見えない、静か、そうかこれは。
人生をまっとうして土の下で眠っている自分、みたいな。

だから、心やすらかな気持ちになったのだろうか。

霧の中を歩きながら、その晩のひそやかな会食の時間を思い出した。
言葉が、テーブルの上で力なく落下してゆく。
耳をすませても、目の前の男の声がひどく遠い。
笑顔を保った。
カフェラテの泡にはハートがたくさん書いてあったけど、だけど。

私の右手は正直だ。
触りたいものと、触りたくないものを、叫ぶ。

朝になったら、晴れだった。

からっぽの右手でも、うそつきの右手より、ずっといい。

何歩か先がもう見えなくて、手も耳もひんやり冷たくて、行き先が見えないせいで、よけいに静かな夜に思えた。
遠くで、野犬が吠えていた。

そんな霧の夜には、右手はポケットで温めて。
いっそ、目は閉じて歩くんだ。

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