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おやすみ、赤い薬缶

お気に入りの赤い薬缶を、ある時、沸かし過ぎて空炊きしてしまって、すっかり煤けさせてしまった・・。
いつかその煤(すす)を落とそう落とそう、と思いながら、もうどのくらい経ったのか。

今夜、思い立って磨いてみた。
でも、こすってもこすっても、一向に取れない、真っ黒い煤。
焦げ付いた想いみたいに、いつのまにこんなにかたくなになってしまったのか。
心がざわつく夜や、仕事の優先順位が混乱しそうになる夜は、思い切ってPCを離れ、台所で皿を洗うことにしている。
皿や鍋がシンクの中になければ、シンクを磨く。
水周りに皿が溜まってしまうと、気持ちも自然と詰まってくる。
水周りがすっきりすると、なぜか心も晴れやかになって、また仕事に戻る意欲が沸いてくるのだ。
単純だけど、効果てきめんの儀式だ。

なのに、赤い薬缶の煤だけは、どうしてもとることができない。
煤とは、こんなにかたくなで、黒いものであったのか。
どうしても剥がしきれない悔いや未練のようなものなのか。

こんな夜には風が便りを運んでくるから、昔落としてしまったボタンのことを思い出し、ふいに胸が痛んだりもする。
落としたボタンは、もうとっくに、違う服にしっかり縫い付けられているというのに。
その服からは、私のまったく知らない洗剤の香りがするだろう。

何年も着ていたお気に入りのコートの金ボタンを、先日ついに失くしてしまった。
パリでも履いていたお気に入りの皮のブーツの先に、はっきりとした綻びを見つけた。
何度も補強したボタン、何度も修理に出したブーツ。
でも、そろそろお別れなのかな。
月日がたったのだな、と気が付いた。

風をよけるためには、新しいコートが必要だし、もっと遠くに行くには、新しい靴がいる。
この春は新しい靴を履こう。
間に合わせの代用品なんかじゃなく、上等な何十年も履ける靴。

どこまでも歩きたい。
虹が見えるところまで。

特別な曲だけを胸に残して、煤は必ず洗い流す。
柔らかく足を包んでくれる靴で、未来に向かう。

薬缶は、今夜一晩、重曹水につけてみようと思う。
明日は、きっと落とせるだろう。

だから、おやすみ、赤い薬缶。
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