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私の男

胸が焼け焦げる程に、恋している男がいる。
その人を、私の男と呼んでいいのであれば、私の男の名前は淳悟、と言う。
淳悟とは、古本屋で出会った。
出会いなんて、どこに転がっているかわからないものである。
一目見たときに、不思議な引力のようなものを感じ、私から誘った。
彼を手にいれてからは、向き合うたびにどんどん好きになった。
あ、こういう好きは怖いな、と思った時にはもう手遅れだった。
中毒患者のようにきりがない衝動。
向き合うだけで、心が痺れたようになり、瞬きも忘れ、むさぼるように、日々ただ彼のことを思った。
彼のひどく痩せた背中、指の間でくゆらせている煙草の煙、もてあました手足。冷酷な目。
どれも、けして得意なものではなかったはずなのに、彼と出会ってからは、それらがひとつでも欠けてしまったら、人生はたちまち色彩を失ってしまうだろう、と思うようになった。

だが、私が彼の手に触れることは、永遠にない。

小説の登場人物はいつだって、読んだ本人の頭の中だけを住処とし、胸を蝕み、肌には指一本触れずにおいて、湿り気のある溜息をこぼさせる。

そんな風にして、私は久しぶりに、この紙とペンで作られた男に、心底まいってしまった。

桜庭一樹・著「私の男」。自分の中で、久々に強い中毒性を感じた作品だ。
表紙と裏表紙の間で、淳悟は生きている。
作品に溺れる喜び。
ああ、私も、誰かを溺れさせることのできるような作品が書きたい。
誰かを溺れさせることのできるような、女になりたい。
そして、現実世界の男には、残りの人生、決して溺れたりなんかするもんかと、抵抗むなしくも苦し紛れに吐き捨ててみる。

心乱しながらも、実はまだ最後のページにはたどり着いていない。
残りのページを読み切るのが、 さみしい。
想いをコクるまでが、一番輝かしい。

小夏

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