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父の本棚

12月公演『午后は、すっかり雪』の小道具を探しに、久しぶりに横浜の実家へ帰省した。
大量の古本が必要となったのである。
古本であれば、古本屋めぐりが一番の近道ではあるのだが、自分の父が殆ど病的と言っていいくらいの読書家であったことをふと思い出したのだ。

父は、本が捨てられない。
来年定年を迎えようとしている今もなお、本棚には高校時代、大学時代、に愛読していたであろう小説や専門書が並んでいたりする。
下心たっぷりで帰省し、宝探しのつもりで父の本棚と向き合ってみた。

今回探しているのは、昭和38年〜55年頃の出版物達。
父の人生と照らし合わせると、ちょうど彼の大学時代から新婚時代あたり、いわば青年期真っ盛りの頃の蔵書となる。
結果から言うと、私は自分の読書量のたりなさを痛感しうちのめされた。
ドストエフスキーやトルストイなど、読んでなきゃ恥ずかしいのに読めていない長編がいくつも並び、私が持ってなきゃいけないような、ハードカバーのシェイクスピア全集がある。
ギリシャ悲劇はなぜか英語版、フロイトから哲学書、精神分析などの専門書、このあたりは大学時代のものだろうか。それに、いくつもの画集。
一番驚いたのは、漢文と海外詩集。父は、こんなに詩を読んでいたのか。
私なんかより、よっぽど作家的な本棚なのである。

うちのめされながら、ふと手にとった「新ヘッセ詩集」。
私も久しぶりに詩集をあさってみようか、と思いながら開いた厚表紙の裏の青い色紙に、33年前の父の走り書きがあった・・。

於 鎌倉 昭和51年秋
浩子が7月8日に生まれたので、×××(注:勤務先)の年長の同志、伊藤氏がお祝いに下さったものです。
『7月の子ら』を特にすすめて下さいました。
伊藤氏も7月生まれであり、小生も、7月7日生まれなのです。

語りかけるような筆跡は、誰に宛てて書いたものだったのか。
それとも、自分への覚書だったのか。
だが、33年後の秋に、この父の走り書きは、まっすぐと、その日祝福された娘へ届いたのだった。浩子、とは私の本名である。
父に電話してみると「その詩集は貴方にあげよう。伊藤さんも、もともとそんなつもりでくれたのだったと思うから。」と、思わぬ贈り物を授かることになった。
伊藤氏は、生物学が専門の癖のある研究者だったらしく、眉を苦くしかめながらにんまりと笑う人だったのだと言う。
伊藤氏の計画は、今夜ついに完結したのだ。
顔も知らぬ父の同志に、なかなか粋じゃないですか、と心の中でささやいてみる。
この同じ夜の下で、彼が眉をしかめ苦く笑っていることを夢想し、私は、胸の中が温かいもので満たされてゆくのを感じた。

『七月の子ら』 ヘルマン・ヘッセ

私たち七月に生まれた子らは 
白いソケイの香りを愛する。
私たちは花咲く園にそい、
静かに重い夢にふけってさすらう。

真紅の色のケシは私たちの兄弟。
ケシは麦畑の中に、熱い塀の上に、
ゆらぐ赤いおののきのうちに燃えている。
やがて、風がその花びらを吹き払って行く。

七月の夜のように、私たちの一生も、
夢を重く担ってその輪舞を仕上げよう。
夢とあつい収穫の祭りに身をまかせ、
麦の穂と赤いケシの環を手に持って。

注*ソケイ・・羽衣ジャスミン
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青年団リンク青☆組vol.11『午后は、すっかり雪』粛々と稽古中。
チケットのご予約は、こちらから・・。
公演情報は、こちらから。ご来場お待ちしています★
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profile * 小夏の呟き * 01:27 * comments(9) * trackbacks(0)

コメント

ひさしぶりのへっせだ。。。。
いつか原文で読んでやるとおもってはやうん十年・・・

昔の人は本当によく本を読んだし、文章をかいていなんだな。と感心するね。今はネットでチャチャチャだけど。いちいち本を読むっていうことが、生活でも勉強でも趣味で必要だったんだよねえ。

先日歌の歌詞を調べているときに友人と話たんだけど、
何百年前に書かれた詩が今でも語り継がれていて、しかも作者が、移民(アメリカは先住民以外すべて移民)で学歴もほとんどない人たちが書いたもの。
現在に生きている私たちは本当の意味で学がないのかもね・・・
自分や人に対しての思いを紡ぎだす思考・表現力もそれを文字として書き出す文章力も持ち合わせていないねえ
と。

Comment by tomoko @ 2009/11/08 4:42 AM
「読んでいないと恥ずかしい」→「〜をしないと欠けている」というような減点法的な考え方(ものの見方)って、自分を苦しくさせるので、自分はある時期からやめたのを思い出しました。

(もう少しきちんと言葉を加えて、伝えたいことを書きたいのですが、今はうまく言語化できません。中途半端な内容でごめんなさい。)
Comment by しん @ 2009/11/08 7:52 AM
tomoko>
古い歌詞を引き継いでいることについてですが、今の自分達にはできない、というより伝統へのリスペクトなんじゃないかな?と個人的には思ったりします。
そして、時代を重ねる過程で、きっと淘汰されてしまった歌詞もあるんじゃないかな?
今日まで歌い継がれているものたちには、やはり何か豊かな力が宿っているのでしょう・・。
Comment by 小夏 @ 2009/11/08 5:54 PM
しんさん>
「ものの見方」という意味で言いますと、ジャズダンスでプロになりたい人が、クラシックバレエをまったく齧ってないとしたら、やはり恥じて当然だと思うんですね・・。自分の立場を踏まえて、そんなニュアンスで使ってました。私にとってはけして自分を苦しくさせることではなく、自分への叱咤激励なんです。
Comment by 小夏 @ 2009/11/08 6:00 PM
なるほど。小夏さん自身の考えは、よくわかりました。

自分が先程のコメントを書いたのは、世の中が全体的に「新しいもの(知識や書物)に触れて、新しい世界が広がる」みたいな考え方ではなく、「〜を知っていないと恥」という考え方が蔓延している気がしたのです。後者の考え方で生きていくと“どこまで学べば完全なのだろう?”と思ったのでひとつの意見として書いてみました。
Comment by しん @ 2009/11/09 6:48 PM
「新ヘッセ詩集」のところ、素敵ですね。         小夏さんが、もっと読まなければと思ったのは、旺盛な知的好奇心や探究心の素直な表れだと思いました。色々なことを知ることでまた新しい世界が広がることと思い、楽しみにしています。
Comment by 草枕 @ 2009/11/11 2:27 AM
草枕さん>
優しいお言葉、どうもありがとうございました(泣)
今日、偶然にも「草枕」というカレー屋さんに行ってきたんですよ!
だからなんだ、という感じですが・・。
今日は、草枕な日です(笑)。
Comment by 小夏 @ 2009/11/11 2:30 AM
「草枕」というカレー屋さんがあるとは驚きです!
Comment by 草枕 @ 2009/11/11 2:39 AM
草枕さん>
新宿にあります。ぐぐると出てきます。
とってもおいしかったですよ!
Comment by 小夏 @ 2009/11/11 2:42 AM
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